「――っらぁぁぁぁぁッ!!」 裂帛の気合と共に戦斧が振られ、洋墨と文字を撒き散らして侵蝕者が消滅する。 「これで、最後?」 「最後です!」 大鎌を引き戻す太宰の声に、後列で油断なく構えていた徳田が弓を下ろした。 「よし、浄化完了だね」 「少し手間取っちまいましたね」 徳田に答えた...
花散らしの雨は、昨夜遅くに已んだ。 夕風は穏やかで、どこかから花の香りが運ばれてくる。中庭を横切る渡り廊下に立ち止まり、井伏は茜色に染まった空を見上げた。 (やっぱりこの日は晴れますか) さすがだねえと呟いて、顎髭を撫でながら口許に笑みを浮かべる――と、そこで賑やかな声が聞こえて...
桜の散り始め、うららかというよりは暑いくらいの日だった。 午前の潜書と昼食を終え自由の身となった井伏が、自室で本を開こうとしたときのことである。 「んなぁう」 聞き慣れぬ鳴き声に、井伏は本を文机へ置いた。 振り向けばいつの間にそこにいたものやら。座卓の前の座布団の上に、薄茶色をし...